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2025.09.01

滋賀県 失われた20年

民主主義は選挙だけでなく、絶えず自由を支える制度を磨く努力で守られる。フランスの故ドゴール大統領は「政治はあまりに重要なことであるから政治家にまかせては駄目だ」と有力誌のコラムはいいます。我々は特定の政治集団は支持することはしませんが、民主主義を守る権利があります。郷土を守る義務もあります。

2006年滋賀県は知事の公共事業の見直し「もったいない政策」により建設中の東海道新幹線栗東新駅、そして大津市の大戸川ダム、余呉町の丹生ダム、永源寺町の利水ダムや大津市栗原の廃棄物処理場を、検討なしにすべて中止又は凍結しました。栗東新駅は2012年開業を目指し5月27日着工、京都―草津間複々線はすでに完成し、草津―手原間も複線化に着工し、ゆくゆくは草津―水口間も複線化になり新大阪まで新快速が走る予定でした。

もともと草津線は旧東海道であり日本のメインロード1号線であるのに、未だに不便な単線のままが不思議と思われます。JR琵琶湖線、湖西線はじめ各ダイヤも間引かれて、水口や長浜では1時間に1本になっております。今後、人材不足の日本で少人数で多量輸送の貨物を含む鉄道がCO₂対策上も不要になることはあり得ません。

栗東新駅に賛成する栗東市をはじめ地元を無視し工事は中断、建築費260億円は大谷翔平の契約金なら4駅作れる額で、北陸新幹線各新駅の経済効果は約300億と試算され、「もったいない」どころか1年分で償却できる額になります。

さらに150億円と言われる設計費及び着手金は全額滋賀県が持ち、地元が提供した先祖伝来の土地をバッテリー工場などに売却、廃液で悪臭が出、最近(2022年)も約20年ぶりに琵琶湖に赤潮が発生し環境の悪化を招いています。せめて跡地は公園にでもしておいて欲しかった。日本で最初のインターチェンジや環境と調和した中央競馬トレセンができた希望の町滋賀栗東が、今や住宅と工場が混在するただの町に、、、悔やまれます。

環境行政「びわこ条例」は崩れてきています。当然ですが環境は経済的な基盤がなければよくなりません。環境社会学ではなく経済学の問題です。前職は滋賀県の人はおとなしいとよく言われ、まさか原始共産制でよいとは思えないですが、、、

京セラ創設の故稲盛氏は無給の会長で経営破綻の日本航空を再建するとき、パイロット出身の植木社長が「航空事業はまず安全が優先します」との反論に「安全にはお金がかかるが、じゃ、そのお金はどこからでるのかね?」と聞いたと言います。

コロナ禍の教訓を経て、今頃滋賀県は関西の軽井沢になれたと思う。現実は、失われた18年が20年以上になろうとしてます。軽井沢は関東ではなく長野県で、以前は別荘地だったのですが、新幹線ができ東京の通勤圏になり若い世代が集まり出し活気が出てきたのはご存知の通りです。また、北陸新幹線「黒部」駅ができ、YKKは本社機能を東京から移転し、次世代のまちづくり「パッシブタウン」をスタートさせています。

京都はインバウンドでパニックなのに、日本で4番目に文化財の多い滋賀県には恩恵はありません。栗東新駅があれば大型バスなどで十分県内あるいは京都へと観光ルートで潤うはずだったと思う。20年前頃滋賀県は日本で最も最後まで人口が減らない伸びる県と言われましたが、2017年から人口は減少、2024年地価も下落に転じ、関西圏と東海圏の中間に位置する滋賀県はいかに交通インフラが重要か思い知ることになります。

さらにこの問題でJR西日本との関係悪化が懸念され、北陸新幹線米原ルートは廃案「滋賀県には線路を敷かない」とでも言うたげに、いわゆる「鯖街道」より京都側を80%トンネルで貫き、敦賀小浜から京都駅へ向かう小浜ルートに決定(2016年)もともと工事費からしても米原ルートの方が安く、小浜ルートの3.9兆円から5兆円に対し5900億円と試算され工期も短く、当初北陸3県も京都大阪も米原ルートに賛成していましたが、JR東海とJR西と折合いが悪く、小浜ルートの方が10-20分新大阪に早く着くとJR西が言うだけで各府県も反対に転じたといいます。JR労組出身のためか現知事もこれに同調、何を血迷ったか、自民から対立候補を出さないよう東京や福井で小浜ルート賛成を会見しております。image8

この小浜‐京都ルートは、長く自然が守られた有数の原生林「芦生の森」国定公園を突っ切り、京都駅周辺で地下深く難工事が予想され、もともと枯山水の京都盆地で、取り返しがつかない地下水や文化財への影響、リニアトンネル掘削工事と同等以上の水位低下が想定されます。またこのルートは花折断層帯にそってトンネルで走ることになり、この断層帯を震源とする地震は、最新24年の京都府公表の被害想定震度7で死者4700人、全半壊25.8万棟になるといいます。まさに大きなリスクをかかえました。過去新幹線は地震で複数回脱線しており、長いトンネル内で崩落 地下水流出 火災など大惨事が危惧されます。

もう一つ問題は、北陸新幹線小浜ルートにより、湖西線は「並行在来線」に該当し、法令によりJRが経営分離もしくは一部廃線化するか、第3セクターに移管する可能性が出てきました。このままでは江若鉄道廃線時、今津から浜大津までバスで数時間かかった昔に戻ることになります。
公有民営化した近江鉄道の30年累積赤字の40億円に比べ小浜ルートはまさに令和の戦艦大和だが、交通工学の中西京大名誉教授や曽根東大名誉教授は米原ルートの方が乗り換えても早く、費用対効果が少なくルートの再考を促しています。

福井県の人口は滋賀県の約半分ですが、新幹線の駅は5駅できることになり各駅を中心に地域振興が起こっています。整備新幹線最大の駅舎の敦賀駅は最上部は12階建てビルに相当し、駅舎内も豪華で、港町敦賀にはタワーマンションもできます。県境の南の三重県側と奈良県側にはリニアが走ります。

一方、滋賀県唯一の新幹線駅米原は役割を敦賀に代わられ通過駅に、滋賀県自体も通過県に成り下がり、知事の言う「滋賀県は一つ」どころか南高北低の歪んだ格差が拡がりつつあります。高島や湖北では農地も荒れ、小学校も統合され、絶滅地域に指定されつつあります。瀬田川以南の大津の方は京都志向で滋賀県にはあまり関心がないようです。水、米、野菜そして人材を供給するだけの「滋賀は京都の植民地」化かとさえ言う人も出てきました。

滋賀県南部も人口が増えているのは主に夜間人口で、滋賀に定住される方は少なく、京阪神に通勤され、主婦は扶養の範囲内勤務、子どもの教育負担といわゆる「弊害人口」で県内にあまり経済的恩恵はありません。マンション建設も建築は他府県業者、利益も大阪東京の本社に落ち、滋賀県は学校やインフラの整備を負担させられ、その遅れは交通渋滞や学校格差を招きます。教育行政の負担も重く、小学校全国学力テストでは最下位、中学校や高校までの医療費の助成も全国で最も遅れました。累積赤字200億を越える県立総合病院、他県立3病院の改革も放置されております。

また、滋賀県の半分を占める森林環境も、数百億の巨額の累積債務を抱かえた滋賀県造林公社とびわ湖造林公社の問題により放置、今後環境破壊を招きかねます。

丹生ダム建設中止により2022年、70年なかった高時川が氾濫し、大戸川ダム中止も大水害時の琵琶湖水位の調整の限界が心配されます。さらに京大小杉教授を座長とする高時川濁水問題検討会議は、濁水は長期化するという、琵琶湖の環境や漁業に深刻な問題になってきました。

そもそも私ども子どもの頃1960年代、近江盆地は特有の地質や地形もあり、毎年の如く水害が多く「近江太郎」野洲川などは数年に一度天井川が決裂、大水害に襲われ、そのつど家屋や農作に大損害を出し経済的にも苦しみました。その経験から滋賀県は1970年代新たな330m巾の川を作る画期的な野洲川改修工事をはじめ、天井川の草津川を廃川(2002年)後跡地公園にし、自然に配慮した新草津川の開削、同じく家棟川(野洲)の付け替え(2006年)そして犬上川ダム建設など大規模な河川改修によりほぼ堤防の決壊などの大水害はなくなったはずでした。

現在滋賀県は中央からの地方交付金も少なく、道路、架橋、バイパスなどインフラ整備が遅れ大津、草津市街や犬上川、愛知川、野洲川そして瀬田川、各河川ごとに朝夕の交通渋滞はひどく経済活動を遅らせております。

元来近江は徳川幕府の要衡で、四天王の井伊を彦根藩、本多を膳所藩に置き、東海道中仙道を整備し交通の便、治安が良かったため、近江商人が倉を置き全国に活躍できたのです。近年は倉荒らしが多発し対策に困っております。

産業が少なく交通の便が悪いと若者が高卒後、滋賀県から京阪神や東京へ流出しており、若者が憧れた立命館びわこキャンパスなど、せっかく誘致した大学も学生が集まらず県外へ離れ、また新幹線の駅がなければ企業も本社機能は置けず、工場だけで法人税はあまり地元に落ちません。まず早急にインフラを整備し交通の便をよくし、同時に行財政改革と少子化対策を行い、究極の少子化対策である経済を活性化する必要があります。

30年間停滞してきた日本経済がようやく動き出した期待の中、滋賀県のみは現状のままだと、悪循環は続き2006年から失われた18年が20年30年になり「滋賀県の凋落」は自明になるでしょう。

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