2025.09.01
子どもの健康への警告
日本の国力の衰退は行財政改革、教育改革、少子化対策を怠ったつけですが、教育・少子化の実態は、私どもの認識を変える必要があります。
日本の少子化人口減少のスピードが早すぎ、予想より15年早いと言われています。滋賀県は最後まで人口の減らない県と想定されていましたが、2017年から減少に転じ、2008年から継続していた人口140万人を切り、草津・守山・近江八幡市以外は大幅な減少、地価も上がっていません。高島・長浜は消滅都市に入っています。
究極の少子化対策は経済の活性化と言われますが、人口半分の福井県は4つの北陸新幹線駅を中心に経済振興、インバウンドで沸く京都を尻目に、滋賀県政はそれに逆行しており「もったいない政策」から「滋賀県失われた20年」そして「日本の30年」から「転落の50年」(日経)が続きます。
前知事が言うように滋賀県人はおとなしいのか、勇気がないのか、上から言われたまま前例に従い、科学者や専門家の意見をあまり聞かないようです。
しかし若い人こそ、遠くで聞こえる列車が近づくと速くなるように、この大きな問題の存在に真剣に向かわざるをえなくなると思います。少なくとも子供達に間違ったアナウンスは防ぐ必要があります。
一般の人々は学校現場へ行く機会も少なく、自分の子供や孫さえよく分かっていないと思います。私もそうでしたが、守小PTA会長や、幼稚園小学校中学校の校医を引き受け40年、何より毎日診療を通じ子どもを看てきました。
特に、南中での2中学生自殺事件の際は最前線でした。父兄は学校の先生に不信感を募らせ医師の言うこと以外は聞かなくなり、年長の私が議長で父兄の矢面になり、内科の福田先生に「自殺について」とズバリ体育館で講演をしてもらい、マスコミから難を逃れました。今の日本式教育システムでは「いじめ」はなくなりません。
また、国体を控えスポーツ医学の研修、特に内科医・歯科医・整形外科の認定医、看護師、トレーナーが全種目に喫緊に必要とされています。
子どもの成長には運動スポーツは必須です。しかしそれには条件が付きます。最低運動生理学に基づくストレッチやマッサージ、科学的なトレーニングとサポートが必要です。さらにソウルオリンピック以降選手には厳格なメディカルチェックも条件とされます。
塾通いしかしていない小学生を中学になった途端に「先輩は○○大会まで行った、君たちも頑張れ」と急にハードな課題を与えるなど日本式練習は問題で、特にかなりの若者の身体や関節に障害を与え、整形外科医が元に戻らないと警告しています。体がまだ活性化していない朝練などやめるべきです。また、体育座りも腰などに負担があり成長に影響します。プロの大選手に今年の抱負を聞くと必ず一年ケガをしないことと言います。
「大谷選手の真似」をしないで、生き方を真似てください。子どもの時の野球肘、野球肩は一生治りません「イチロー選手の真似」をしてください。指導者がスポーツ医学を知っておれば重症化は防げます。元Jリーガーの子供だましのような成功物語は楽しいですが、長谷部選手のようにサッカーなどの指導は今はライセンス制です。国の進める部活動の「地域移行」責任ある外注化も実行すべき段階にきています。
なお、これらは子どもに限らず、特に中年以降の我々にも、より重要になってきます。日本人は欧米と違いカルシウム不足が顕著で、骨粗鬆症や予備軍が多く、特に意識してカルシウムを取るべきです。但し、牛乳は子牛の乳で粒子が荒く吸収していない人もあり、従来の日本人古来のカルシウム含有食物を勧めます。
まず、なにより現在の日本の子ども達の健康状態を知る必要があります。学校健診の膨大なデータにより病気の質が大きく変わり、運動能力や体格体位も退化傾向になっている事実を把握する必要があります。
学校健診は数・レベルから見て統計学的に信頼度の高いものです。私は守山南中、物部小学校の創校来の校医として40年以上医学的に守山の子供達を見てきました。
2016年度学校保健統計調査によると、12歳児DMFT(総う蝕経験)指数は0.84本にまで減少、過去最低を更新しました。むし歯の罹患率は、幼稚園小学校中学校高等学校すべての学校段階において、ピークだった1965~1975年代より減少傾向が続いています。
とくに守山市は、1996年小学校、保育園、幼稚園でのフッ化物洗口を、私ども若い時代歯科医師会主導で導入しましたので、罹患率は半減しております。やっと欧米先進国並みになってきました。
日本の自然の水、井戸水や湧き水、海産物海藻類、お茶などはフッ素が入っており、そのうえ江戸期まではフッ素入りのお歯黒を塗り房楊枝予防していました。なお、ここで言うフッ素は自然の無機物で、よく問題になる有機フッ素化合物(PFAS)とは全く異なります。
但し、大人のむし歯は増加しております。食生活の軟食化、咀嚼力の低下、唾液分泌量の減少(ドライマウス)及び食物の酸性化、歯ブラシ歯磨剤の誤用が主な原因と考えられます。江戸期の日本人は理にかなった房楊枝を使い、米軍の兵士はヘルメットと歯ブラシは離しませんでした。松井秀喜が大リーグキャンプ初日、練習はいいから歯医者へ行きなさいと言われたのは有名な話です。
子ども達のむし歯が減少してきたことは、喜ばしいことです。しかし、今の子ども達は昔の子ども達とは別の問題を抱えています。まず、調査の疾患のなかで、長年首位を独走してきた「むし歯」にかわり、近年急速に数字を伸ばしてきているのが「裸眼視力1.0未満」で、中学校で61.2%、高等学校では75.5%で各々第1位です。小学校でも37.9%まで上昇。近視は主因は遺伝ですが、7-11才で最も進行します。また、IT化による内斜視の増加なども深刻です。
喘息も30年前と比較すると3~6倍と依然高い数字ですし、花粉症などのアレルギー性鼻炎は大人も含めて増える一方です。主に現代の生活環境や食生活で、不正な免疫反応によるアトピー、各種アレルギーなどは減ることはありません。ただ、診療室をウイルスフリーにすると花粉症がなおることを見ても、「自然」がキーワードと考えます。
歯科に関しましては、1997年以降健診項目に入った顎関節症、歯周病、特に不正咬合は急増しております。単なる治療の勧告だけでなく、これらの原因と予防の指導が必要です。即ち、子音の発音が少ない不明瞭な日本語の使用、食物の軟性化、生活習慣のIT化、などによる顎骨や歯槽骨の成育不良への対策が必要です。
発育状態の項目に目を向けますと、戦後から上昇を続けていた身長・体重ですが、身長は1994~2001年にピークを迎えその後横ばいの傾向。体重は1998~2006年度あたりにピークを迎え、その後は減少傾向となっています。いまだに日本人の身長体重が伸び続けていると思っている人が多いですが、認識を変えてください。
西日本の日本人と人種的に同じで、日本の学校健診の残る韓国と比較しても平均体重で約3㎏、身長で約3cm差があると言われ、最新の韓国政府の調査では2023年の平均身長は10年前に比べて男子中学生で7.4cm、女子中学生で3.3cm伸びています。1人当たりのGDPと同様に日本は韓国に抜かれ活力の差がありそうです。
体力・運動能力調査の基礎的運動能力については、高かった1985年頃と比較すると、依然低い水準で、特に握力やソフトボール投げなどの筋力を使う項目での低下が著明です。
最直近の2019年度の小5と中2の全国体力調査で8種目の体力合計点はいずれも低下、特に小5男子では過去最低となりました。コロナ禍2020年での小学生のスポーツテスト(新体力テスト)はこの種のテストの開始以来最も低い平均値を示し、2021年はさらに史上最低を記録しております。
さらに以前より指摘されてきた背筋力の低下は、直立歩行により進化してきた人類の退化傾向を示しております。スマホ、パソコンなどによる「侮れない猫背」は万病のもとになります。2005年の調査でも姿勢の悪いと感じられる子は小学校で75%に達しています。朝登校中の子供を見ると、背筋が曲がっている子が多いのに驚かされます。体育座り、睡眠態癖、頬杖などの姿勢や態癖の矯正の指導や、枕を低くしたり位置を前にする、江戸期の見台のように例えば座骨を意識し骨盤を立てる正しい座り方、イスや机の調整などは、これらはスパルタ教育ではなく医学的に必要と考えます。現在のスポーツ医学に基づいた体幹のトレーニングはサッカーの長友佑都や、最近ではやり投げの北口榛花や水泳の大橋悠依の泳ぎ方が良い例です。和田某の言うトドでは金メダルはとれません。
近年の体重の低下の原因に、筋肉量低下を指摘する声もあります。女性には、痩せすぎモデルは使われません、背中美人を目指して、と指導して下さい。
なお、小中高の学校における骨折率は1970年代と比較すると2.4倍となっています。
これらの低下は、IT化など生活環境の大きな変化により子ども達が外で遊ばなくなったため、運動習慣が2極化してしまったことが原因ですが、中学校などで、急激なクラブ活動などのため、スポーツ医学を無視したことによる運動器障害やスクリーンタイムの増加に伴うストレートネック、斜視、顎関節症、さらに将来のロコモティブシンドロームにつながる深刻な問題でもあります。例えば骨や筋肉が未発達の成長期にひじの損傷や炎症である野球ひじは11才~12才が、野球肩は15~16才がピークで早期発見治療しないと治りません。野球や、サッカー、ラグビーなど世界に通用するアスリートなどスポーツで成績が向上している日本人は英才教育的な約20%であり、中でもいわゆる海外組で、低下している残りの約80%、特に運動ができない約20%の子ども達への対応が課題です。従来の日本式練習法ではなく、運動生理学に基づく科学的なトレーニングが必要です。私どもは運動能力の低い方の80%の子ども達の援助をすべきで、有名選手の真似をする必要はありません。
アレルギー性鼻炎は鼻閉、口呼吸につながるので、当然歯列に影響を及ぼすものですし、体力の低下は姿勢を悪化させ、態癖の原因になることもあるので、やはり歯列不正の一因となる可能性があります。また、転び方の下手な子ども達が増えてくることは、前歯の脱臼や打撲・破折の増加につながります。むし歯は減りましたが、新たな問題が増えているようです。
上顎骨の発育不良は、鼻腔の狭窄につながり、扁桃腺肥大は気管を狭くし、ホ乳類が進化の過程で獲得した鼻呼吸を困難にし口呼吸へと退化させます。食物をあまり噛まずに丸のみで早い、発音が気になる、食事が極端に遅いなど、これはいわゆる「お口ポカーン」で病名「口唇閉鎖不全症」で健康保険が適用されます。日本の子供の30%以上が罹患しております。また口蓋が狭く舌の不正な癖でも不正咬合になります。正しい姿勢、食べ方は正しい舌や唇の位置、口腔機能発育に重要です。これらは英悟独語などの発音、特に子音の発音の出来と相関します。但し、対策の一つに上顎骨急速拡大装置を装着すると85%の鼻閉が改善できると報告が出てきてます。
そしてもう一つ、従来近視は大人になれば進化が止まるとされてきましたが、近年大人になっても進行が止まらない人が増えているようです。蛍光灯やLEDの光の中にはほとんど含まれない、太陽光の中の380nmの波長の光が、近視を抑制するそうです。子ども達は外に出て運動すべきで、近視の予防には屋外で(屋内では窓際でも無理で)、1日2時間1000ルックス以上の光が必要とされ、国によっては学校での野外活動を法制化されております。よく瞬きをするようになると注意が必要です。パソコンやスマホ使用による視力低下や内斜視などの予防はアメリカ眼科学会のいう20-20-20ルール、すなわち20分使ったら20秒休み20フィート(6メートル少し)以上離れたところを見る、20秒の休憩中に窓の外を見ることです。同時に背筋を伸ばすストレッチをやって下さい。
子ども達に今必要なことは、岐路に立った時、どちらが自然かで選んでほしい。例えば、歩ける距離なら車に乗らない、ゲームより屋外で遊ぶ、 (イチロー選手のように)運動は自然なストレッチから始める、光を受ける体内時計に従い早寝早起き朝ごはん、甘いお菓子より自然の果物や豆・小魚、(砂糖に対する自然の味覚教育)、(パンならご飯、ラーメンならうどん、ジュースなら麦茶など)カタカナ食品からひらがな食品へ、特に硬い食物でなく普通の日本の伝統食を一口30回しっかり噛むことなどです。咀嚼運動は生理学的に「学習」とされ、子どもと歩く時はゆっくり歩くように、「早く食べなさい」は禁句です。1980年代動物実験により咀嚼力とIQは相関することは証明されております。そして20-20-20ルール、日本の子供達の未来のために。
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